夜の歌

時々このまま消えてしまいたいって思うのは僕らは何故だか儚いものに憧れるから

鹿児島県枕崎市

 

その町は、いつも鰹の匂いがした。


鰹節工場が至る所にあり、港は冷凍の鰹がたくさん水揚げされていた。
(たまに道に冷凍鰹が落ちている時もあった。)
夜は遠くのビニールハウスから電照菊の灯りが煌々としているのをただ眺めるのも好きだった。
台風は毎年通過して、台風中継がテレビであると大体知っている港が映し出されていた。
雪が降ったのは5年住んで一度だけ。
いつも潮風が柔らかく吹いていて、魚臭い。
花火大会は三尺玉が上がるのでその日だけは人がわんさかきて帰りの渋滞がすごい。

専門学校を卒業して、私はそういう街に引っ越した。
初めての一人暮らしはワンルームで、広くはなかったけれど、実家と折り合いのよくなかった自分としては自分の車内以外で初めて落ち着ける空間ができたと思った。
入職した病院では、方言がわからず戸惑い、どこが痛いか尋ねると「つんぶしがいたかー」と言われ、???となったり、鰹の腹皮唐揚げというものが食堂で出て、腹皮??となったり、とにかく新鮮で楽しかった。
つんぶしは膝、腹皮は鰹節を作る時に必要ない鰹のトロの部分らしくその地方では小学校の給食に腹皮カレーというものが出るそうでおいしいらしい。
実際焼いただけでもおいしい。
今でもスーパーで見かけるとつい買ってしまう。
みんな優しくて芋焼酎がおいしくてとてもいい街だ。白波の新酒まつりは必ず行っていたなぁ…今でも焼酎は黒桜島か黒白波を買うようにしている。